風と鬼ごっこ
※IF設定。青嵐・剛志・有の隣のお兄さん(和紀)・短編の非日常の真澄の四人が 真澄、和紀、青嵐が大学構内のラウンジで会話を楽しんでいるとそこへ近づいてくる影があった。
「なつかぜ」
「ああ、どうしたんだい」
はるかぜさん、と呼ばれたその人は青嵐へ袋に入ったCDを差し出す。
「借りてたやつすげぇよかった。ありがとな」
ニカっと笑うその人に青嵐も親しそうな笑顔で答える。
真澄と和紀がじっと見るのに気づくと青嵐が紹介をしようとした。
「こちらは」
「はるかぜ、だ」
それを遮り自分で名乗ったのをうけ真澄と和紀が自分達も名乗る。
「……用心深すぎる気もするけど、いいか」
ちょっと引っ掛かった青嵐の様子に不思議に思った『はるかぜさん』以外の二人だがとりあえず黙っていると青嵐が再び紹介しだした、
「高校からの親しい友達で、学部も一緒なんだ」
「にしては今まで見かけたことなかったよな」
疑問を投げてはみたが、まあ人それぞれ忙しいこともあるしと自分で答えを出していると青嵐が突然クスクス笑った。
それを横目に見つつ『はるかぜさん』が口を開いた。
「あいつがいる所には出ないから」
「あいつ?」
真澄と和紀が声を揃えて言う。
「はるかぜさんは、」
青嵐が笑いを消さないまま話し出そうとしたその時、
「おーい、そこの人!」
「げ」
呼び掛けに嫌そうな顔全開をしたはるかぜさんはクルリと半回転して逃げようとしたが時すでに遅し。全速力で走ってきた剛志に行く手をはばまれた。
「観念するしかなさそうだよ、はるかぜさん」
「やっぱり、はるかぜか!やっと会えたぜ」
悪戯っぽい目ではるかぜさんを見る青嵐の言葉に剛志が満面の笑みでガッツポーズをした。
訳がわからないのは真澄と和紀だ。
「はるかぜサンは高校が違ったのか?」
青嵐と高校が同じ剛志が会ったことないような反応を疑問に思い説明を要求するとばかり真澄たちが青嵐へ問いかけると首を振られた。
「いや、同じ高校だった」
「なら」
なんで、と更なる謎にはまったのに答えたのは剛志だった。
「青嵐に、はるかぜ、ていう友達の存在がいるのは周りや青嵐の話を聞くに知ってたが、一切姿を見たことがない。どんなやつか聞いても誰も答えない。探してみたけれど一向に見つけられない」
「つちのこか」
思わず和紀がツッコミを入れた。
「いやぁ苦労してやっと会えたぜ」
剛志がキラキラしたような目で念願のはるかぜさんを観察するのにはるかぜさんは嫌そうな顔で顔を背けた。
「でもまた何でそんなことに」
真澄の疑問にはるかぜさんはため息混じりに話し出す。
「こいつの大雑把ですげぇ陽気な性格と雰囲気が疲れる気がして苦手でな。遠目で見るだけでうんざりする」
「だから顔会わせないよう逃げ回ってた訳だけど、それを何年も達成できるはるかぜさんがすごいよね」
俺との付き合いは変えずに、てのがまたすごい。と笑う青嵐。それにはるかぜさんが笑顔で答えた。
「なつかぜと付き合い変えたくなかったからな。これのせいで変わるのもシャクで、意地でもゴメンだったしな」
と剛志を親指で指さす。
「あ〜人によっては近くにいるだけで強すぎるてこともあるか」
「どうやって逃げられたんだ」
「まず、はるかぜというのは、なつかぜ ―青嵐― だけが使うあだ名で本名は違う。あとは周りとかにヒント教えるなて言っただけだぜ」
あとやったことといえば極力会わないよう気をつけていたぐらいだ、というはるかぜさんに真澄と和紀は驚きを、剛志は悔しそうな顔をした。
「それだけで見つけられないとは。其々のクラスの知り合いに名前一覧にあるやつ見せてもらったりしても見つけられなかったが一体どんな名「教えねぇよ」……前なんだ」
剛志の言葉が終わらないうちに即答するはるかぜさんに恨めしげな目を向けるが、はっとした様子で、
「だがそれだけすごいやつってことだよな」
一転、尊敬の入った眼差しで見られはるかぜさんは少し引き青嵐を勢いよく振り返る。
「をい、この犬どうにかしろ。飼い主だろ!」
「飼った覚えないな、それに飼いたくもない。でも、犬?猫じゃない?」
「はあ?犬だろ」
「猫でしょ」
剛志の人権をどこかに忘れてるような会話に剛志が口を開く。
が、
「引き合いに出すとは、はるかぜさんは犬好きか」
「言うことはそれなのか?人権主張しろよ人間捨てるつもりか?」
即ツッコミをいれる和紀。一方の真澄は少し苦く笑ったような表情をすると
「……こいつは人間だろうと別の生き物だろうと変わり無さそうだよな…………」
そんな和紀と真澄の会話に気づくことなく剛志は同士かと期待の目。そうだというなら犬会話から仲良くなろうとしている意図が透けてみえる。
「いや、俺は猫派だ……おまえは犬好きのようだな。っち、嫌いといえたら少しは気がはれるだろうに残念なことに嫌いではない」
「なら何が好きだ?俺ははるかぜさんのことを知りたい」
「気色悪い!」
はるかぜさんは即答すると犬を追い払うように手を払う仕草をする。
それでも動じない剛志に飽きれを含みつつ真澄が言う。
「ひとつ間違えるとただのはるかぜさんのストーカーだぜ」
「そんなつもりはないが、考えても見ろよ、どうやっても見つからない。するとどうしても見つけたくなるだろ」
「だってさ」
青嵐がはるかぜさんを見ると、うんざりした顔で答える。
「逆に考えても見ろよ、探されたくないに探される。するとどーしても見つかりたくなくてがんばっちまうだろ」
「……はるかぜさんに賛同」
和紀が同情するような目をした。
「なにはともあれ、見つけたのだから俺の勝ちだ」
心なしか胸を張って言う剛志に、はるかぜさんの眉がカチンときたようにピクリと動いた。すーと目を据わらせ。
「……何が勝ちだ。やってやろうじゃねぇーか」
「なに?」
剛志がさすがに驚きはるかぜさんを凝視した。
「負けず嫌いのはるかぜさんらしいな」
青嵐はフッと息で笑うとはるかぜさんの肩に手をかけ声援を送った。
「今までより難しいだろうけどがんばれ」
青嵐の言葉に和紀が同意してうなずく。
その様子を黙って見ていた真澄が口を開いた。
「剛志の気持ちわからないでもない。見つけたくなる、が」
真澄はそこでニヤリと笑うと、
「ハタから見るに、はるかぜさんに協力したいな。面白い」
クツクツ笑う。それに和紀が空笑いと共に口の動きだけで「愉快犯」と感想をのべた。
「味方は誰もいないのか」
剛志はすねた顔をわざと作ったが一瞬でいつもの前向きな性格を表したような勝ち気な顔をすると、
「絶対負かしてやるから覚悟しろ」
指をつきつけ言い放った。
「そういう所が暑っ苦しくて嫌なわけだが……挑むところだ」
と、はるかぜさんは不敵な笑みで受けてたつ。
「さらに楽しい大学生活になりそうだ」
剛志のものとも真澄のものとも知れぬ呟きは、どこからともなく聞こえた気がしたゴングの音に消えていった。
|