灯火



 冬のある夜、周利は有に誘われて泊まりに来ていた。

 夕飯までの時間を部屋でゲームや本を読んで二人楽しんでいたのだが、外は日も落ち真っ暗になっているというのに有が突然部屋の電気を消した。

「有?」

 驚いて周利が声をあげるがそれに答えず外からの月明かりだけの空間で何やらしてたかと思うと一つの赤い光が灯った。

 よく見ると有の手元には普通のろうそくとは違うスパイラル状の白いものに火が灯されていた。

「クリスマスキャンドル? クリスマスにはあと数日早いだろ」

「クリスマスのためじゃないよ」

 気が早くクリスマスのお祝いをしたくなったのかと思った周利だが否定され、では何故、と先を促すすると有は少し言葉を出しにくそうにしていたがやがて話始めた。

「ちょうど感情がすべて戻って一年か、て思い出したら前の僕がいなくなってそれぐらいだってことでもあるなぁて思ったんだよ。それで鎮魂の灯というか……何かろうそくをと思ってお店見に行ったら、この時期だからクリスマスキャンドルが多くてちょっとメルヘンな雰囲気になっちゃった」

 有は自分と周利の間のフローリングにキャンドルを置くと座りその灯をじっと見つめた。つられるように周利もその灯を見る。

 温かく灯るそれの中に周利は一年前の様子が映し出されているように感じた。いくつもの場面がスライド映像のように見えるようで、どの時を思っても最後にはよく有は戻ってきたなという思いに行き着く。それは有が持っていた強さのおかげだろうとも。

 やがて自然とあの時より前の元の有を思い出す。明るくしっかりしていて時々天然なこともやらかす今と同じようで違う有を。

 有が再び口を開いて周利は思考の海から戻ってきた。

「周利のおかげでみんなのところへ戻ってこれたし、一緒に灯見て欲しいなぁて思ったんだ」

「それで泊りに誘ったわけか」

 自分のおかげではないと思いつつ周利は納得したように頷いた。

 実は今日の朝、突然有から電話がかかってきて今日泊りに来ないかと電話があったのだ。いつも有が突然言い出すのには慣れていたがそうとはいえ、いきなりどうしたかと思っていたのだ。

「朝言ったのも嘘じゃないよ?」

「……それはそれでどうかと思うけどな」

 朝の電話で泊りに来て欲しい理由として言われたのは「寒くて寂しいから」だった。 その言葉に周利は思わず受話器を離し見つめてしまった。聞き間違いじゃないかとも思ったけれど、頭の中で再生して間違いでないと確認すると頭を抱えそうになった。

 だからこそそれは無理やりつけた口実で灯を一緒に、が本当の理由だと納得したというのに、そちらもとは。本気で頭痛がしてくる気がした。

「どうして?」

「どうしてって言われてもな……」

 周利の戸惑いも余所に有が続けて言う。

「本当に寒かったし、雪が静かに降ってて寂しくなったからそう言っただけだよ?」

 心の底から疑問に思っているのがわかる顔にどう言えばいいかわからず黙った。そんな周利を助けるかのように部屋のドアがノックされ有の母親が「夕食ができた」と伝えて去って行った。

「ほら、できたってさ。さっさと一階行って食べよう」

 これ幸いと急かすように言うと立ち上がり灯を消すよう言ったのだが、今度は有が黙った。

「有? 早く消して行こうぜ」

「んー消したくないな……」

 ポツリと呟く有にドアに向かっていた足を止めた。

「何となくもう一度自分を消すような気分でいやだ」

 周利はハッとなって有を見つめた。

 灯るろうそくは命に例えられることがあるが自然とそれが思い出されてしまったのだろう。まずい、と周利は思った。深く感情に落ちた有は危うい。

 揺らめく灯、少し風が起きただけでその炎は消えそうに細くなる。儚いそれを見つめる有に何も言葉が出てこなかった。こうなったら無理に消せとも言えずどうしたものかと考えてしまった。

 その時、ふと思いつき周利は有の前に戻り座ると口を開いた。

「有、目を閉じてキャンドルを思い浮かべろ」

「え?」

「いいから」

 戸惑う有を無理やり目を閉じさせる。

「で、それに灯を着けるのをイメージする。着いたか?」

「うん」

「それはそのままにして実際のキャンドルを吹き消す」

 有が周利の言葉に従ってフッと息で消す。急に暗くなり温かみを失った空間に周利の言葉が更に続けられる。

「想像の方はまだ火着いてるか? そのままにしておけよ。心の中に灯らせ続けさせておけば生き続ける」

 驚いたように有が目を勢いよく開け周利を凝視した。

「だろ?」

 とニヤリと笑ってその視線を受け止める。その顔が見えたかどうかわからないが有が表情を緩める。

「うん……うん」

 有が胸に手のひらを当てて徐々に月明かりでもはっきりわかるぐらいはっきりと笑みを浮かべた。それに満足したように頷くと周利が再び立ち上がった。

「じゃ、夕飯食べるか」

「うん」

 有はほんのり暖かさの残ったキャンドルを机へ乗せると周利と一階へと降りて行った。

 その心の中に灯をともし続けつつ。




                              終 




 2014.01発行『紡語り』掲載


 ちょうど一年前ぐらいにそろそろクリスマスキャンドルが売り出されるってぐらいにろうそくの火を見ながら考え付いた話です。

 誕生日ケーキにろうそくって経験あまりなかったですがろうそくの火を消すのってちょっと辛い感じがするんですよね私だけ?
 たぶん原因は仏壇のろうそくの火は先祖の人の命の火だから息で吹き消すなとかなんとか小さいころに言われて消すのが怖かったせいだと思いますが。<2014.11.01>



 

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